11 株式会社大林組

大林組の描く未来に伴走する。「ウェルビーイングなまちづくり」を、フューチュレックはどう形にしたのか Partnering with Obayashi Corporation to shape the future. How did Futurec bring “well-being-focused urban development” to life?

大阪・関西万博という巨大な実験場を舞台に、株式会社大林組が挑んだ「Better Co-Beingプロジェクト」。従来のゼネコンの枠を超え、データ駆動型の「ウェルビーイングなまちづくり」を目指す大林組の挑戦と、それを支えた”フューチュレック”のアジャイル開発の裏側に迫ります。

左から大林組・岡崎さん、フューチュレック・神田、大林組・平井さん、フューチュレック・石園、大林組・伊藤さん、大林組・井内さん(以下、敬称略)

1. 大阪・関西万博から始まった第一歩

今回の万博において開発されたWEBアプリケーションについて教えていただけますか。

大林組・伊藤

今回私たちが提供したのは、大きく分けて二つの機能を備えたWEBアプリです。一つはシグネチャーパビリオン「Better Co-Being」内での体験をサポートする機能、もう一つは万博会場全体で利用できる機能です。
パビリオン内では、設置されたセンサーと連携して来場者の位置情報を把握し、目の前にあるアート作品の解説を表示します。単に読むだけでなく、共感した作品に「いいね」を送ることで、自分自身の感性や他者との感じ方の違いを可視化する「共鳴マップ」が生成される仕組みです。

会場全体で使える機能としては、自分の撮った写真に5行の言葉を添えて、その時の感情を投稿する「DROPS」という機能をメインに据えました。公式には提供されていない、その瞬間・その場ならではの魅力を発信・共有することで、多様な価値観に触れる体験を提供することを目的にしています。

建設会社である大林組が、なぜこのようなデジタルアプリの開発に乗り出したのでしょうか。

大林組・平井

私たちの「スマートシティ推進室」では、従来の建設業や不動産業の枠を超え、生活者一人ひとりのニーズを起点とした新しい事業モデルの構築に取り組んでいます。すでに2023年から大阪の中之島を中心に「みんまちプロジェクト」として実証実験を行ってきましたが、万博はその知見を深め、社会実装へつなげるための「実験場」だと捉えて協賛を決めました。

2. プロジェクトを進めて見えてきた課題

今回、フロントエンド(ユーザーが直接触れる画面側のシステム)の開発パートナーとしてフューチュレックが参画しましたが、選定の決め手は何だったのでしょうか。

大林組・平井

生活者視点で機能を考えられる企画力と、ニーズを迅速に反映できるアジャイル(状況に合わせて柔軟に計画変更を繰り返す開発手法)な体制を重視しました。
実は、万博開幕まで残り約1年という極めてタイトなスケジュールだったこともあり、慎重な姿勢を示す企業が多かったのです。しかし、フューチュレックさんは私たちのスマートシティの理念に強く共感してくださり、プロジェクトに対する圧倒的な熱意を感じました 。エンドユーザー向けアプリの実績が豊富だったことも安心材料でしたね。

フューチュレック・神田

お声がけいただいた時は本当に嬉しかったです。大阪の企業として、地元の大きなイベントに貢献できるのは光栄なことですから。他社が慎重だったというのは意外でしたが、私たちは「こんなに面白そうな仕事、絶対やった方がいい」と直感しました。

開発を進める中で、直面した「壁」はありましたか。

大林組・井内

壁だらけでしたね(笑)。パビリオンというリアルな展示演出とデジタルを融合させるため、全体の体験を最高のものにしようと追求する過程で、アプリに求められる設計が頻繁に変化しました。最後の最後まで最善を尽くすため、開幕後も8月ごろまで調整・改善が続きました。

フューチュレック・石園

確かに、机上で考えるのと実際に動かしてみるのとでは大きな差があります。スケジュール的にも余裕を持たせた期間を調整しながら、大林組さんの理想をどう形にするか。ストレートな実装が難しい場合でも、「この形なら目的を達成できる」という代替案を出し、着地点を探るやり取りを何度も重ねました。

大林組・岡崎

石園さんには、私たちが詳しくないバックエンド(サーバー側の処理やデータ管理)の領域まで含めて、現実的な解決策を提案していただきました。その伴走があったからこそ、複雑なビジュアル表現や快適な操作感を実現できたと思っています。

3. 成果と変化 - 万博を終えて

万博を通じて得られたデータや学びには、どのようなものがありましたか。

大林組・伊藤

「DROPS」の投稿内容を分析して驚いたのは、パビリオン内よりもパブリックスペースへの投稿が全体の約76%を占めていたことです 。万博会場の豊かな空間設計が、来場者の印象に強く残った結果だと言えます。
また、投稿数が多いユーザーほど、「夕日が綺麗」といった即物的な感想から、自分の趣味嗜好や文化的な創造といった深い洞察へと変化していく傾向が見られました。5行の言葉を添えるという形式が、自らの価値観を広げ、多様な視点を持つきっかけとして有効に機能したことが確認できました。

大林組・平井

利用者数や投稿数といった数値的な目標の達成以上に、特定の場所での「体験ストーリー」と「感情」がセットで可視化されることで、他者への共感を生み、コミュニティ形成の起点になるという確信を得られたこと等、万博でのデータを分析することで社会実装につながる知見を得られたことが大きな成果です。

4. 次のチャレンジ - 街へ広がる「ウェルビーイングなまちづくり」

万博での知見や体験は、現在進められている「みんまちDROP for 中之島」にどう活かされていくのでしょうか。

大林組・平井

万博という非日常から、中之島という日常の場へと舞台が移ります。現在は、地域のイベント情報の発信を軸にしながら、特定のイベントと連携して「DROPS」を投稿してもらうなど、シチュエーションに合わせた展開を模索しています。
私たちは、スマートシティ事業全体を「みんまちプロジェクト」と位置づけ、生活者のニーズをデータで把握し、スタートアップ企業や行政・エリアオーナーへとつなぐ役割を担いたいと考えています。

大林組・伊藤

私たちの究極の目標は、街に関わるすべての人々のウェルビーイング(心身ともに満たされた幸福な状態)を高めることです 。アプリを街とユーザーを繋ぐミドルレイヤーとして活用し、まだ見ぬ街の魅力を掘り起こしていきたいですね。

5. FUTUREKの取り組み|プロジェクトの裏側と学び

フューチュレックの皆さんは、今回の大林組さんとのプロジェクトを振り返っていかがですか。

フューチュレック・松本

進行管理としてスケジュール調整には苦心しましたが、開発チームと「どうすればこの要望を叶えられるか」を社内の制作チーム内で徹底的に議論できたことが、良いアウトプットにつながったと感じています。

フューチュレック・神田

今回、得られたデータの分析結果やその先の大林組さんのビジョンを聞くことができて、改めてこのプロジェクトの意義を感じました。大林組さんのような大手ゼネコンが、アジャイルな考え方を取り入れながら、スピード感を持って新しいことに挑戦している姿は、多くの企業にとって参考になり、刺激を与えるものだと思います。

フューチュレック・石園

開発中、時には「NO」と言わざるを得ない場面もあり、すべての要望を100%の形で叶えられなかったのではないかという懸念もありました。ですが、今日のお話を聞いて、私たちが提案した代替案がしっかりと大林組さんの目指す方向に貢献できていたと分かり、救われた思いです。

6.フューチュレックの評価 - 技術力と「NOで終わらせない」伴走支援

ここまでお話を伺って、大林組様の掲げる壮大なビジョンを形にするには、相当な信頼関係が必要だったと感じます。改めて、パートナーとしてのフューチュレックをどのように評価されていますか。

大林組・伊藤

端的に申し上げて、「大満足」の一言に尽きます 。我々はアプリ開発の専門家ではありませんから、正直、かなり難しい要求もたくさんしたと思います 。それに対し、フューチュレックの皆さんは常に熱意を持って向き合い、多くのことを教えてくださいました。
特に石園さんには、フロントエンドの枠を超えてバックエンドやサーバー側の調整まで、領域を広げてサポートいただきました 。我々が詳しくない技術領域においても、「現実的にこの形なら実現できる」という代替案を必ずセットで提案してくれた。この「NO」で終わらせない姿勢に、プロジェクト進行のあらゆる場面で助けられました。

大林組・平井

開幕後も8月まで調整・改善が続きましたが、決して投げ出さずに責任を持って伴走し続けてくれた技術力と対応力には、本当に感謝しています 。複雑なビジュアル表現や快適な操作感を実現できたのは、フューチュレックさんの「守備範囲の広さ」があったからこそです。

7.おわりに - 読者へのメッセージ

最後に、今回のプロジェクトを象徴する言葉をいただけますか。

大林組・伊藤

「共に挑み、共に成し遂げた」プロジェクトでした。フューチュレックさんがパートナーだったからこそ、この難易度の高いチャレンジに踏み込めましたし、成果を出すことができたと思っています。

大林組・平井

大林組には「硬い」イメージがあるかもしれませんが、私たちはアジャイルな開発で未来の街をつくる挑戦を続けています。このインタビューを通じて、新しい協業を目指すベンチャー企業の方々や、次世代のまちづくりを志す学生の方々にも、私たちの熱意が伝われば嬉しいです。